恋愛セミナー80【手習】第五十三帖 <手習-1 てならい> あらすじその頃、横川という場所に、ある僧都(そうず 高僧)がいました。 僧都には八十歳くらいの母親と五十歳くらいの妹がいましたが、初瀬に観音参りに行った帰り道、 母親の方が病気になってしまいます。 宇治で体を休ませることにしましたが、容態は悪化するばかり。 僧都は見舞いにやってきて、亡くなった朱雀院の所有していた宇治の院に母親を移します。 宇治の院がとても荒れていたので、供をしてきた僧たちに経を読ませる僧都。 何故か僧たちは、火を灯させて院の裏手を周ってみると、森のような木儀の下に、白い物が広がっているのが見えました。 狐か何かが化けているのかと思い、恐る恐る近づいてみる僧たち。 それは、ひどく泣いている女人なのでした。 僧たちは、僧都を呼びに行きます。 「人間ならば助けなければ罪になる。しばらく世話をしてみよう。」 病人の母親に近くに奇妙なものを運ばない方がよいという人もあり、 変化のものでも見捨てることはできないという人もあり。 僧都は人の目の届かないところに、女人を寝かせます。 僧都の妹の尼君の耳に、この騒ぎが入りました。 「初瀬で見た夢があるのです。その人を見せてください。」と僧都に頼む尼君。 見ると、若くて香も芳しい美しい女人が、息も絶え絶えに横たわっています。 「まるで死んでしまった愛しい娘のよう。」 尼君は泣いて喜び、自分の部屋で女房達と世話を始めるのでした。 やっかいなことになったと思いつつ、女人が高貴な様子なので 捨てておくわけにもいかず、祈祷などをする僧たち。 尼君は病気の母親をおいて、この女人の看護をし、女人の声を聞こうとします。 「生きていても不用の者なのです。どうか私を宇治川に捨ててください。」 やっと口をきいた言葉に驚き、わけをきく尼君ですが、女人はもう何も言いません。 女人はただ美しく、本当に魔物かと思えるほどです。 僧都が宇治の院にいると聞いて、周辺の住民がやってきて噂話をもたらします。 「八の宮の娘で薫の君の思い人だった方が、突然亡くなったそうで、その雑用をしておりました。」 その人の魂を鬼が取って持ってきたのではと思って女人を見て、無気味に感じる僧都。 女房達はその葬儀が簡略だったことや、皇女を妻に向かえた薫の君が宇治に通うはずはないなどと言い合うのでした。 僧都の母親の病気が回復したので、尼君たちは女人を連れて庵のある小野に戻ります。 四月になっても女人の容態はよくならないので、僧都に頼んで祈祷をしてもらう尼君。 僧都が一心に祈ると、とうとう女人に憑いていた物の怪があらわれました。 「私はお前達に懲らしめられるような者ではないのだ。 法師として仏道修行に励んでいたが、この世に恨みがあり死後も漂っていたのを、美しい女人が あまた住んでいる所に棲みつき、片方は死なせてやった。この女人は、どうにかして死にたい、 と言っていたので、闇夜に一人でいたのを憑いてやったのだ。だが初瀬の観音に守られているので 僧都の力に負けてしまった。さあ、抜け出るとしよう。」物の怪は叫びます。 僧都が正体を聞いても、物の怪は答えようとしません。 女人は周りに見知らぬ人が大勢いるのに気づきますが、自分の住んでいたところも名前も思い出せません。 「たしか私は身を投げようとしていた。ただ悲しくて、皆が寝静まったあとに外に出たけれど川の音が 恐ろしくて座り込んでしまった。「鬼でも何でも食い殺して。」と言っているととても美しい男がやって来て 「さあ、私のもとへ。」と私を抱いたので「匂宮か。」と思っていたがそのあとは何もわからなくなってしまった。」 この世に戻ってしまったのをただ辛く思う浮舟なのでした。 恋愛セミナー80 1 浮舟 ただ一人で 浮舟は生きていました。 匂宮も、薫も、そして自分をも持て余してしまった浮舟。 「死にたい。」といい続け、強く願っていたため、物の怪に魅入られてしまったのです。 さて、この物の怪はいったい誰でしょうか。 いままで物の怪となったり、死後も夢の中にでてきた人物として、六条御息所、藤壺、 桐壺院、柏木があげられます。 紫式部は物の怪が誰であったかを明らかにすることが多いのですが、今回は謎のままです。 朱雀院の持ち物である宇治の院に住んでいること。 法師として仏道修行に励んでいたこと。 この世に恨みが残ってしまったこと。 美しいこと。 女人に憑いていること。 以上を考えると、候補は誰になるでしょう。 考えられるのは、源氏、朱雀院、八の宮あたりでしょうか。 実はこれが誰かを考えたかったのも、源氏について書き始めた大きな理由のひとつなのです。 よろしかったら、どうかあなたのお考えをお聞かせくださいね。 |